archives
水野由加里のRacing Salon Vol.8 棟広良隆氏&竹内啓安氏(後編)


水野:
それでは、次はキングカメハメハ産駒のグレイスフルソング'13ですが、気になる情報として、受胎数が減少しているというのがありますがどういったことなのですか?

竹内:2013年産くらいからですね。。。キンカメは種付けができないわけではないのですが、以前していたように200頭くらい種付できる状態ではなくなったということです。受胎率が下がって、恐らく精子が少なくなったということなのですが、そして、リビドーというのですが、性的欲動がなくなってしまった。それらが一気に来てしまったみたいなんです。それで受胎率が3割くらいになってしまっているんですよね。

よく馬業界では産駒の数が減っていったときにスーパーホースといわれるような後継馬を出すというのが言われています。最近で言えば、フジキセキのイスラボニータ、ディープインパクトもサンデーサイレンスの晩年でしたよね。ガリレオもサドラーズウェルズの最後の最後でした。弱ってきたときに出すので、この世代は狙い目ですよね。最後の力を絞って出す感じですよね。
今のところの後継馬はルーラーシップとロードカナロアといったところですからクラシックディスタンスではまだないですね。
 
水野:キンカメ産駒はデータから見たらどうですか?

棟広:距離別にみるとすごいデータがあったんですよ。それは1200mの強さです。面白いですよね。ロードカナロアが強いのはイメージがありますけど、勝ち時計について1200mが全体との比較で0.5秒以上早いんですよ。1200mで0.5秒というと相当です。調べてみてびっくりしました。
もちろん血統の配合によって出方は違うと思いますが、1200mでこの結果が出たのは、面白い結果かなと思いました。勝ち時計がいいというデータですので優秀なパフォーマンスをする馬が多いということですね。
 
竹内:キンカメ自身はダービー馬、NHKマイル勝ってる馬ですから分からないものですね。
 
棟広:同馬が走ったとしたら今となっては分からないですが、産駒には多いですね。代表馬を見ても、ルーラーシップ、トゥザワールド、ロードカナロアと時計のかかるタフな馬場で強い馬が多いですよね。これはヨーロッパの重い血統が出ているのかなと思います。
 
竹内:後継種牡馬はクラシックディスタンスでまだ出てきていないですよね。キンカメ産駒は血統通り走るイメージがあります。重賞馬で見てみると、ロードカナロアもストームキャットの肌で短距離ですし、トゥザワールドはトゥザヴィクトリーですし、ルーラーシップはエアグルーヴですし、お母さんの血統通り走るイメージがあります。広尾さんは相性いいですよね。マカハ、エルカミーノレアルなど走ってますよね。そして、この募集馬のお母さんのグレイスフルソングはバラードの血統で名牝中の名牝ですよね。成功した種馬を送り込むような牝系出身の血統ですから、キンカメの晩年ということもありますし、この配合とタイミングは合致しているのではと思います。
血統的によく似た馬はグラッツィア(キングカメハメハ産駒で、グレイスフルソングの半弟)ですよね。ダートのオープンで先週5着来てましたよね。
 
棟広:ダートでベルシャザールに勝った馬ですよね。
 
竹内:フェアリーバラードにキンカメをつけたのがグラッツィアで、ロックオブジブラルタルが入ったのがグレイスフルソングですね。
サドラーズにキンカメをかけると、ダートが中心になってしまうんですよ。ヨーロッパですと、スタミナを武器にガンガンいけるんですけど、日本に来るとヨーロッパ過ぎて、スピード不足でダートになるのですが、ロックオブジブラルタルが入っているので芝のスピードを出してくれるのかなと思っています。国枝先生は相当気に入ってるみたいですね。

 

水野:みなさん、ありがとうございます。キンカメの代表馬といえばアパパネですからね。調教師は同じ国枝先生で心強いです。期待したいと思います。
それでは、そのアパパネと同世代のステラリードの仔である、ステラリード'14にいきましょう。シンボリクリスエス産駒で森秀行厩舎を予定しております。
先ほど、藤原先生はじっくり馬を仕上げる印象といいましたが、森先生の印象はいっぱい馬が出てくるなという印象です。地方だろうが出せるところ出しますよね。
 
竹内:森先生は海外も好きですよね。オーストラリアに所属馬数頭を持っていって長期遠征するとか。それに森先生が国際G1勝利は初めてなんですよね。藤澤先生ではなくて。シーキングザパールですよね。フジヤマケンザンでも香港国際カップ(現在の香港カップ)、あのころは国際G1ではなかったですが、香港の国内G1ですし。隙間産業ではないですけど、そこいくの!?っていうレースを使いますよね(笑)
 
水野:そういった面では楽しいですよね。棟広さん、森厩舎に関する印象はありますか?
 
棟広:使い出しが速いイメージがありますね。2歳の重賞というイメージです。アグネスワールドも2歳戦から活躍してますし、皐月賞のキャプテントゥーレも森先生ですし。ステラリードも函館2歳Sウィナーですしね。
 
水野:はじめて持った馬がステラリードだったんです。初勝利も函館の重賞も連勝でしたし、桜花賞もオークスも連れていってくれたし。周りの一口の先輩からは馬を一口持ったとしても最初の1戦を勝つのが難しいんだよ、と言われていたのですが、ステラが頑張ってくれたので実感がなかったんですよね。ステラリードはピークが前半に来てしまったのですが、何がだめか陣営のみなさまと一緒に検討しながら競走馬時代を駆け抜けて、無事にお母さんになって、こうして元気な仔を産んでくれたことが嬉しいです。
 
竹内:それはもう出資するしかないですね。
 
水野:もちろんですよ!

竹内:(笑)僕が思うのは、ステラリードが早熟な短距離馬という風には思っていないんですよね。そのように決めつけるのは早計じゃないかなと思います。普通にこのウェルシュステラの血統は成長力有りますもん。ゴッドフロアーもそうですしね。

この仔は父がシンボリクリスエスで、母父がスペシャルウィークなのでエピファネイアのイメージでとらえた方がいいと思います。

クラシックディスタンスですよね。クラシックの一頭を選ぶという意識がよさそうです。
 
水野:ステラリードはパドックを回っていて、馬場への道にいくと暴れるんですよ。そこがコースへの出口だって知ってるんですよね。賢い馬なんですよね。
 
棟広:そうなると気性的な問題もあったかもしれませんね。カリカリしているところがなければ距離も融通が利いたかもしれません。そういった性格なら脚が溜められないですから。
 
水野:ステラリードで函館2歳Sを勝った岩田騎手からも普通のジョッキーなら抑えられないという話を聞きました。竹内さん、この仔はどうですか?
 
竹内:僕は大丈夫だと思います。当歳を見てきましたが、抜けていいですよね。キビキビしていて、お尻はプリッとしていて、歩きもゆったりしていますし。

水野:少し気性面が不安でしたのでそれは嬉しい話です!心置きなく出資できます。

話は変わりますが、ウェルシュステラは牝馬だけしか生んでいないですが、最近牝馬が多いように思います。人間界でもそういわれてますね。
 
竹内:男性がハッピーな傾向なんですかね(笑)
 
水野:これから生まれてくる女性が多くても竹内さんは対象外ですよ~。(笑)
 
竹内:そんなことはないかもしれませんよ。そのために僕も後方待機していたのかも。。。(笑)
そういえば、社台さんでも19頭全部牝馬という年がありましたね。
しかも最近は牝馬が強いですよね。ウォッカやブエナビスタ、海外でも凱旋門賞は3年連続牝馬です。今年一番強いの誰?と言われたらハープスターかなと答える人もいますよね。
 
棟広:凱旋門賞といえば、今晩行われるインターナショナルステークスに出るオーストラリア、シーザムーンもいますし、今年の凱旋門賞は相当強いですよね。
 
竹内:イギリスのオークスを勝ったタグルーダも最軽量でやってくるわけじゃないですか。去年の勝ち馬のトレヴもいて、女同士の戦いも見逃せないですね。
 
水野:今年は日本からはジャスタウェイ、ゴールドシップ、ハープスターがいきますね。これから秋に入りますが、私も出資馬の成長を身近に感じながら、秋競馬、凱旋門賞なども楽しみたいと思います。
居酒屋対談楽しかったですね。本日はありがとうございました!
 
竹内:ありがとうございました。気軽な雰囲気の中ですと会話も弾みますね。
 
棟広:話が脱線して使える話題が少なくなるのも大変かと思いますが(笑)ありがとうございました。 
 


棟広良隆の広尾TC募集馬カタルシス

今回扱った募集馬を棟広良隆の視点でまとめていただきました。ぜひご覧ください。

グレイスフルソング'13



昨年度から受胎率が大幅に下がってきている貴重なキングカメハメハ産駒。入厩先は国枝厩舎ということで真っ先に思い出されるのが、牝馬三冠を達成し古馬になってからもヴィクトリアマイルでブエナビスタを降したアパパネが同産駒。相性は文句なしと言えるでしょう。また、調教師が同馬をかなりお気に入りの様子という話は、非常に頼もしい限りです。キングカメハメハ産駒は全種牡馬産駒との比較では、重い芝により優秀な結果(ロードカナロア・ルーラーシップ・トゥザグローリー・トゥザワールドなど重い芝巧者多数)を残してきていますが、意外なのは短距離でもスピード負けしないということ。千二の勝ち時計の平均は、全種牡馬のそれを大きく凌駕しています。それに、芝千四~マイルのG1を7連勝した母父ロックオブジブラルタルのスピードがどう掛け合わされるのか非常に楽しみです。父としては日本で目立った活躍馬を輩出することは出来なかったロックオブジブラルタルですが、母父としてはミッキーアイルが既にG1を勝っています。スピードに任せたレース振りからも、母父で良さを出すタイプという見方が可能です。
初仔なのでまだ体は小さめという話ですが、国枝調教師は毎月確認に行っては笑顔を見せているとの報告。全体のバランスの良さと骨量の豊かさ、そしてキングカメハメハから受け継いだ筋肉の質がアピールポイントとのことです。

ステラリード'14



母のステラリードは、広尾サラブレッド倶楽部ゆかりの血統と言えるウェルシュステラ産駒。その待望の初仔。新馬戦→函館2歳Sと連勝で重賞を勝ったように母は2歳夏の早くから活躍しました。ですが、ソロル・サンカルロといったように古馬になってからでも成長をみせて重賞で好勝負を演じ続ける仔を輩出している父シンボリクリスエスが奥行きを加えてくれるでしょう。
母は、気性的な問題からひ腹に肉が付かなかったのが原因で距離が保たなかったという話ですが、それでも重賞を勝ちました。遺伝子の強さを物語っていると思います。父シンボリクリスエスはロベルト系で、それを掛け合わせることによって同馬の気性面の中和についてもしっかりとケアされているのは心強いところです。
また、祖母の産駒は4歳の夏になって漸くしっかりしてきたゴッドフロアーのように奥手の仔も出しています。同馬がどちらになるかは未知ですが、もうこの時期から馬体は抜けて良く、かなり目立っているという話。母を重賞勝ちに導いた森厩舎に入厩するとならば、仕上げのノウハウに心配は無用でしょう。

棟広良隆(むねひろよしたか)プロフィール

日本の競馬評論家・塾講師。甲陽学院高等学校および京都大学工学部卒。高校1年生より競馬に関心を持ち始め、京都大学在学中に「新馬場適性理論」を創始する。京都大学競馬研究会の会長をつとめ、卒業後は名誉会長。グリーンチャンネル『KEIBAコンシェルジュ』レギュラーをはじめ、多くの雑誌や競馬新聞に連載を持つ。

「新馬場適性理論」棟広良隆公式WEBサイト ムネヒロネット