archives
北半球各国のダービーを終えて


2015年は、北半球の各国で「強いダービー馬」が誕生した年となった。
5月31日に東京競馬場で行われた日本版ダービーの「東京優駿(芝2400m)」
は、皆様もご存知のように、G1皐月賞に続いてドゥラメンテ(父キングカメハメハ)が
制し2冠を達成。
残念ながらその後、両前脚の橈骨遠位端を骨折していることが判明し、
3冠達成も凱旋門賞制覇も幻に終わったが、復帰した暁には必ずや、ファンに夢の
続きを見せてくれる馬であろうと思う。

同じく5月31日にシャンティー競馬場で行われた仏国版ダービーの「ジョッケクルブ賞
(芝2100m)」を、最後方一気というド派手な競馬で制したのがニューベイ(父ドゥバウィ)だ。

1冠目のG1プールデッセデプーランでも同じような競馬をし、その時にはマイペース
で逃げたメイクビリーヴを捉え切れず2着に甘んじたが、2冠目では抜け出してから
更に伸びて後続に1.1/2馬身差をつける完勝。同じ勝負服で、同じように破壊力
抜群の末脚を持っていた80年代の最強馬ダンシングブレーヴを彷彿させるとの声も、
関係者やファンから聞こえてきている。

6月6日にエプソムで行われたザ・ダービーを勝ったのが、ゴールデンホーン(父ケイ
プクロス)だ。陣営は当初この馬を10Fの馬と診たて、春の目標を仏ダービーにおき
英ダービーには登録すらしていなかったのだが、英ダービーの代表的前哨戦のG2
ダンテSを制して路線を変更。7万5千ポンド、日本円にして1425万円の
追加登録料を支払って出走し、見事に栄冠を射止めた。英ダービーで”4”まで
伸びた同馬の無敗の連勝記録がどこまで伸びるかが、シーズン後半の欧州競馬の
大きな焦点となっている。(以下、文中の成績は全て7月1日現在)

6月27日にカラで行われたアイリッシュダービーは、英ダービーでゴールデンホーン
の後塵を拝したジャックホブス(父ホーリング)が完勝した。デビュー2戦目に
サンダウンの一般戦(芝10F7y)を12馬身差で制した際には、重賞出走
経験すらなかったにも関わらず英ダービー前売り本命の座に祭り上げられた素質
馬で、後続に5馬身差をつけた愛ダービーのレース振りは、秋の更なる飛躍を予
感させられるものだった。

そして、強いダービー馬の中でも極め付けなのが、5月2日にチャーチルダウンズで行
われたG1ケンタッキーダービー(d10F)を制したアメリカンフェイロー(父パイオニ
アオヴザナイル)である。

これも皆様ご存知のように、5月16日にピムリコで行われたG1プリークネスS,
6月6日にベルモントパークで行われたG1ベルモントSも制した同馬は、37年
ぶり史上12頭目の3冠馬となった。

これを受ける形で6月12日に発表されたワールドサラブレッドランキングでは、ベルモ
ントSにおけるパフォーマンスでレイティング128を得たアメリカンフェイローが1頭
抜けた首位に浮上。2位は3ポンド下がった125に横並びで3頭がランクインし、
そのうちの1頭が無敗の英ダービー馬ゴールデンホーン。そして、レイティング121で
世界11位にランクされたのが、日本ダービー馬ドゥラメンテだ。121という数字は、
05年にディープインパクトがダービーを勝った際の暫定値119、11年にオルフェー
ヴルが勝った際の暫定値120をいずれも凌駕するもので、いずれも3冠を獲得し
た先輩たちよりも、ダービー終了時点ではドゥラメンテの方が上という評価となっている。
なお、6月12日付けのランキングで、仏ダービー馬ニューベイは上位20頭(レイティング
120以上)に顔を出しておらず、発表の段階では英ダービー2着が最良のパフォー
マンスだったジャックホブスもまたランク外となっている。

レイティングやランキングは、シーズン後半の大レースを通じて今後大きく動いていく
ことが予想されるが、まずは3歳馬にとって春最大の目標となっているレースが終わった
段階で、日本ダービー馬が仏ダービー馬や英ダービー2着馬よりも上との評価を得ている
のは、日本の競馬ファンにとっては嬉しい限りである。

別の見方をすれば、我が国の競馬の水準が上がった今日、日本の競馬で頂点に立つこと
は同時に、世界のトップを狙う位置に身を置くことを意味している。広尾サラブレッド倶
楽部を通じて競走馬のオーナーシップに関わっている皆様は、既にその段階で、世界の頂
を目指す戦いに参画をしているのである。 


日本と世界の距離が縮まったことは、前述した各国ダービー馬の血統を分析することで
も実感することが出来る。

例えば、英ダービー馬ゴールデンホーンは、2006年生まれの牝馬フレッシュド-ルの
3番仔である。母自身は現役時代未出走に終わっているが、その兄弟にはG1コロネ
ーションSを制したレベッカシャープ、G3英ダービートライアルS勝ち馬ミスティックナイト、
LRチェシェアオークス勝ち馬ヒドゥンホープらがいるという良血馬である。ゴールデンホーン
の1つ年上の半妹イースタンベルも、LRバリーマコールスタッドSに勝ち、G1ナッソーS
で入着しているから、フレッシュド-ルは母として非常に優秀で、現役時代には実証する
ことが出来なかったものの、おそらくは高い競走能力を保持した馬であったことが窺い知れる。

その、フレッシュドールと極めて近い血統構成を持っているのが、現在広尾サラブレッド倶楽
部で募集予定となっているハイアーラヴ’13である。フレッシュドールの父はドバイデスティネ
ーションで、従って直系祖父はキングマンボだ。ハイアーラヴ’13の父はキングズベストだから、
こちらも直系祖父はキングマンボである。
キングマンボの母の父はヌレイエフで、その母は名牝スペシャルだ。
フレッシュドールは母の父がヌレイエフだから、ヌレイエフの2×4、スペシャルの3×5という
インンブリードを持つのがフレッシュドールだ。

一方、ハイアーラヴ’13の母の父はサドラーズウェルズで、サドラーズウェルズの祖母はスペ
シャルだから、ハイアーラヴ’13もまた、名牝スペシャルの4×5というインブリードを保持し
ているのである。
更には、ヌレイエフの2×4を持つフレッシュドールは、ノーザンダンサーの3×5を持つこと
になるが、ハイアーラヴ’13もまた、ノーザンダンサーの3×5を持つのだ。
ハイアーラヴ’13は、今をときめくゴールデンホーンの母と極めて似た血統構成を持ち、
なおかつ、彼女が保持するキングマンボは、世界のどこよりも日本の競馬との相性が良い
とされている血脈である。デビューを果たした暁には、ゴールデンホーン級の大ブレークを
見せておかしくはない血統背景を持つ馬と言えそうだ。

更に、である。ハイアーラヴ’13は牝馬である。彼女が繁殖に上がり、ケイプクロス系の
種牡馬を配合すれば、出来上がるのはまさにゴールデンホーンで、そういう意味では
将来にわたって行く末を見守りたいのがハイアーラヴ’13である。




愛ダービーを制したジャックホブスの血統を見ると、まず目をひかれるのが、母の父ス
ウェインと、その父ナシュワンの名前だ。 スウェインは、97年と98年のG1キングジ
ョージ6世&クイーンエリザベスSを連覇した他、G1愛チャンピオンSやG1コロネー
ションCを制した馬である。そしてその父ナシュワンは1989年、デビューから無敗の
快進撃で、G1英2000ギニー、G1英ダービー、G1エクリプスS、G1キングジョ
ージ6世&クイーンエリザベスSを制した、20世紀を代表する名馬の1頭である。
だがいずれも、種牡馬としては残念な結果に終わったのが、ナシュワン・スウェインの
親子だった。

ナシュワンに関していえば、スウェインに加えて、凱旋門賞を制したバゴ、牝馬ながら
G1インターナショナルSを制したワンソーワンダフルらを出しているから、これで失敗
の烙印を押されては気の毒なのだが、極めて高かった期待に見合う成功を収めたかと言え
ば、必ずしもそうではなかったというのが実態だ。

種牡馬ナシュワンがおおいに期待されたのは、抜群の競走成績を誇ったこともさること
ながら、華麗なるという形容がまさにピタリと嵌る血統背景を持っていたからだった。
父ブラッシンググルームは、レインボウクエスト、ラーヒ、キャンディストライプスといった
後継種牡馬を輩出し、種牡馬の父としても定評のあった馬だった。
そしてナシュワンの牝系は、母ハイトオヴションが英国2歳牝馬チャンピオンで、祖母
ハイクレアもまたG1英1000ギニーとG1仏オークスの変則2冠を達成した上に、
G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSで2着となった名牝だった。ハイトオヴ
ファシンもハイクレアもエリザベス女王の生産馬で、競馬発祥の地イギリスが誇る最高級
の血脈をナシュワンは背負っていたのである。

ナシュワンが種牡馬としては不発に終わった代わりに、と言っては御幣があるかもしれ
ないが、この牝系から出た馬で、只今現在種牡馬として大成功しているのが、他ならぬデ
ィープインパクトである。

ディープインパクトのバークレアと、ナシュワンの母ハイトオヴファッションが3/4姉妹の
間柄だから、日本のスーパーサイヤーは英国の高貴な家柄の、紛うことなき継承者な
のであった。

広尾サラブレッド倶楽部所属の現2歳世代に、アスクコマンダー’13というディープイン
パクト産駒がいるが、この馬がまたナシュワン級の「只ならぬ」血統構成を持つことを、
会員の皆様はご存知であろうか。

父ディープインパクトが、英国の高貴な血脈を背景に持つことは、前述した通りである。
アスクコマンダー’13の母の父は、英愛ダービー連覇を果たしたコマンダーインチーフだが、
この馬がまた、兄に欧州チャンピオンのウォーニングがいて、従妹にG1凱旋門賞馬
レインボウクエストがいて、3代母ノブレスがG1英オークス馬という、カリッド・アブドゥ
ーラ殿下のジャドモントファームが誇る名家の出身なのだ。

なおかつアスクコマンダー’13の祖母の父はG1グランクリテリウム勝ち馬ジェイドロバ
リーだが、その母はナンバーで、つまりジェイドロバリーは、サドラーズウェルズ、ヌレイエフ、
サッチ、エルコンドルパサーらと同系の、超がつく名門ファミリーを背景に持つ馬なのである。
そして、アスクコマンダー’13の3歳母は、日本のG1桜花賞馬シャダイカグラである。

世界中の良血をこれでもかというほど凝縮し、種牡馬になって子孫を残すことを宿命づ
けられているとしか思えないのが、アスクコマンダー’13なのである。



話はジャックボブスに戻るが、種牡馬としては成功したとは言えなかったスウェインや
ナシュワンが、最新の名馬の母の父とその父として脚光を浴びるという辺りに、血統の奥
深さを改めて知らしめられた思いがする。

そして、ジャックホブスが12月27日という遅いデビューからわずか半年でG1愛ダービ
ーを制して世代の頂点に上り詰めたように、アスクコマンダー’13も決して仕上げを急ぐ
必要はないように思う。

仏ダービー馬ニューベイは、いまをときめくドゥバウィの産駒である。
前段で、ニューベイのレース振りはダンシングブレーヴを彷彿とさせると書いたが、実は、
ドゥバウィの祖母ジョワハーの父がダンシングブレーヴで、ニューベイはしっかりと80年代
最強馬の遺伝子を継承しているのである。

ちなみに、先ほどから名前の出ているアスクコマンダー’13も、母系3代目にダンシング
ブレーヴを保持していることを、ここで改めて強調しておきたい。

またニューベイの母系には、サドラーズウェルズ、ザミンストレル、ミルリーフといった、
芝12F路線の巨魁たちの名が散見され、これが、ニューベイが持つ底力の根源と
なっているが、これも先ほどから名前の出ているハイアーラヴ’13もまた、母系にサド
ラーズウェルズ、ミルリーフの名が散りばめられていることもまた、ここで改めて記しておきたい。

アスクコマンダー’13ハイアーラヴ’13も、日本で天下を獲れるだけでなく、
世界の頂に上りつめて然るべき血統背景を持った馬たちある。