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竹内啓安氏 パンサラッサとバスラットレオンは何故にドバイで勝てたのか?!

パンサラッサとバスラットレオンは何故にドバイで勝てたのか?!
 
2022年3月26日アラブ首長国連邦ドバイ・メイダン競馬場で行われたドバイミーティングにおいて、広尾サラブレッド倶楽部所有馬の2頭バスラットレオン、パンサラッサが共に勝利を挙げました。


 
2006年に産声をあげた広尾サラブレッド倶楽部にとって初めてのG1勝利となり、クラブ会員のみなさまにとっても、広尾サラブレッド倶楽部のスタッフにとっても永遠に忘れられない一日になったと思います。
 
戴冠にいたるまでの足掛け16年という月日は決して短かったとは言えません。大手牧場グループが猛威を振るう中での16年間というのは壮絶な戦いであり、その積み重ねの時間は永遠にも思えるものだったと思います。それでも諦めずに信念を貫いて辿り着いた今回の結果は、クラブに大きな自信を与えたでしょうし、今後のさらなる発展につながると思います。
 
レポートのタイトル「パンサラッサとバスラットレオンは何故にドバイで勝てたのか」ですが、今回は血統面をメインに掘り下げていきたいと思います。
 
広尾サラブレッド俱楽部の所有する基幹牝馬はキングエルメス(京王杯2歳S-G2-)を送り込んだウェルシュステラ、クレッシェンドラヴ(福島記念-G3-)を出したハイアーラヴ、パンサラッサ(ドバイターフ-G1-)を出したミスペンバリーなど欧州の名門血統が多く、大舞台においては心強いですが、スピード不足を露呈しかねないラインナップとも言えます。
 
私がはじめて広尾サラブレッド俱楽部さんとお付き合いをさせていただいた際に「血統が重いのではないか」という事を進言しましたが、クラブの立ち上げ当初からその懸念は織り込み済みで「如何に欧州の名門血統を日本の競馬にアジャストさせ開花させるか」をメインテーマとして取り組んでいるとの返答でした。クラブ運営的にはスピードのあるアメリカ血統の繁殖牝馬を導入して、募集馬にラインナップさせたほうが手間はかからないですし、結果が出るのも早いのですが、広尾サラブレッド俱楽部さんは遠回りしてでも本物のサラブレッドを造りたいとの事でした。
 
今回のドバイミーティングでドバイターフ(G1)を制したパンサラッサの母ミスペンバリーはモンジュー×ハイエステイト×Thatchingという配合形式です。欧州では大レースの勝馬を多く送り込んでいる配合ですが、日本国内ではスピード不足に陥ります。そこで日本の競馬にマッチさせるためにディープインパクトが配合相手に選ばれました。サンデーサイレンスの血の導入です。ミスペンバリーは計4頭のディープインパクト産駒を送り込んでいます。2産駒目となったエタンダールは青葉賞2着→ダービー8着→菊花賞10着とクラシック戦線での活躍を見せましたが、やはりディープインパクトの母ウインドインハーヘアが欧州血統であるため日本の競馬だとキレ負けしてしまい、タイトル獲得までは手が届きませんでした。牝馬で生まれたディメンシオンは京成杯オータムH(G3)で2着に入線するなど軽快なスピードを見せましたが、やはりタイトル獲得までは至らず、さらなるスピードの導入が課題として残りました。
 
一方で、ミスペンバリーが見せた繁殖能力は見事で、エタンダールもディメンシオンも舞台が日本ではなく欧州ならば重賞レースを勝っていたのではないかというパフォーマンスを見せてくれましたし、質の高いスピードを与えれば国内のタイトルも獲得できるという手応えを感じさせてくれました。ディープインパクトを配合しても手が届かなかったのではなく、ディープインパクトを配合したから手が届かなかったという発想です。
 
さらなるスピードの導入という課題をクリアするにあたって、配合面でのアプローチに着手しました。ミスペンバリーにはSpecial=Thatchの全姉弟クロスが4×4で組込まれています。SpecialはNureyevの母でSadler's Wellsの祖母でもありますから、Nureyevを使ってSpecialをトリプルクロスさせる配合プランを練りました。Nureyevを持つKingmambo系との配合に切り替えてみようとなり、その中で最もスピードが豊富なロードカナロアが配合相手に選ばれました。
 
配合面でもスピード面でも大きな進化を得たパンサラッサですが、やはりミスペンバリーの重厚な血は晩成型であり「本格化は古馬になってから」という共通認識が調教師サイドとクラブサイドで交わされました。3歳時は無理をさせず、本格化してから勝負しましょうというプランは実を結びます。4歳秋からオクトーバーS(1着)→福島記念(1着)→有馬記念(13着)→中山記念(1着)→ドバイターフ(1着)と快進撃を続けたのです。
 
ドバイターフ(G1)の勝利は「本物のサラブレッドを造る」というクラブ当初からの理念が結実した瞬間といえます。欧州の名門の血筋を日本の競馬にアジャストさせる事に成功したパンサラッサですが、配合形式はKingmambo系×Sadler's Wells系×Mill Reef系であり、この配合形式からはHenrythenavigator、Virginia Waters、Divine Proportionsという欧州のクラシックウイナーが出現している欧州の王道配合でもあり、さらなる挑戦に期待が膨らみます。完全に本格化したパンサラッサは今後も日本国内での競馬ではロードカナロアのスピードがものを言い、海外競馬ではミスペンバリーの底力が発揮されるというハイブリッドな活躍を見せてくれるでしょう。