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バスラットレオン、サセックスS 現地レポート

グッドウッド競馬場で行われたサセックスS(GⅠ、芝1マイル)について
平松さとしさんの現地レポートです。




パドックに隣接されたプレパドック。右回りのそこを回る時、調教助手の荒木裕樹彦に曳かれたバスラットレオンはイレ込み気味。3月に勝利したドバイのゴドルフィンマイル以来の実戦のせいか、少々うるさい素振りを見せていた。
そこに鞍を持った矢作芳人調教師が現れる。
他の地元馬に先駆けて装鞍するのはジュライCの際のキングエルメスと同様。日本でレースに臨む時と可能な限り同じ時間帯で装備を済ませたのだ。
「重かったぁ~」
鞍を着け終えた矢作調教師はそう言った。今回の負担重量は61.5キロ。鞍だけでもゆうに10キロを超す重さがあった。
しかし、その重い鞍を背負った途端、バスラットレオンがそれまでのうるささが嘘のように落ち着いた。
プレパドックとは逆回り。イギリスでは珍しい左回りのパドックに入った時の日本からの挑戦者はすっかり落ち着きを取り戻していた。
「リラックスしていて良い感じでした」
手綱を取った坂井瑠星騎手は後にパドックの様子をそう述懐した。


 
現地時間7月27日、グッドウッド競馬場で行われるサセックスS(GⅠ、芝1マイル)にバスラットレオンを挑ませるため、矢作調教師と坂井騎手が、イギリスに入ったのはレース2日前、25日の月曜日。前日の日本の競馬を終えてすぐに飛び発つと、バスラットレオンとキングエルメスのいるニューマーケットではなく、グッドウッド競馬場へ向かった。矢作調教師は言う。
「中間の状態に関してはほぼ毎日、動画を送ってもらい、良い仕上がりになってきたのが分かりました。バスラットレオンはレース前日には競馬場入りさせるので、自分も空港から直接、グッドウッドへ向かいました」



キングエルメスが挑戦したジュライC当日の朝には、坂井騎手が乗り、ニューマーケットにあるアルバハトリ調教コースで追い切られた。坂井騎手は言う。
「この時点ではレースまで日があったので、まだ完璧な仕上がりではありませんでした。ただ、調教はいつも動く馬なので、良い動きをしてくれました。その後、1週前追い切りではオイシン・マーフィー騎手が乗って気合いを入れてくれているので、好仕上がりになっていると思います」



レース当日、パドックで跨ると、そんな予測に誤りのない事を、手綱を通し、鞍下から感じる事が出来た。
パドックからコースへ向かう細くて長い馬道。下見した際、矢作調教師は「ここでカリカリしちゃわないかな?」と心配したが、実際には杞憂に終わった。荒木助手に曳かれたバスラットレオンは、鞍上で坂井騎手が笑みを見せるほどゆったりと、馬道を歩き、本馬場へと消えて行った。



馬場状態はGood to FirmところによりGood。日本流にいえば“良馬場”といって良い状態だったが、レース前、自らの足で歩いて確かめた坂井騎手は眉間に皺を寄せていた。



「想像していた以上にタフな馬場でした。これをこなすのは容易ではないでしょうね」
それでもゲートが開くと他の6頭を引っ張るようにハナを切った。スタートでは躓いたものの、先手を主張したのだ。



「強敵が相手になるのは百も承知していました。自分の競馬に徹するだけ。逃げてどこまで粘れるかに懸けます」
矢作調教師がレース前にそう言えば、坂井騎手はレース後、次のように語った。
「サセックスSの発走地点は下り坂だし、そもそも躓く癖のある馬なので、そうなる可能性は充分に頭に入れていました。だから冷静に立て直して、ハナへ行く事が出来ました」



こうしてハナを奪うと、道中の手応えは終始良かったと続ける。
「アップダウンのキツいコースだったけど、上手に走ってくれていました」
最終コーナーを曲がり、最後の直線コース。内ラチが大きく内へ切れ込むオープンストレッチコースに合わせるように、坂井騎手はバスラットレオンを内へいざなった。
「内の馬場が良いと感じていたし、まだ余裕もあったので、インへ入れました」
そして、次の刹那、後続を突き放した。再び坂井騎手の弁。
「レース前に矢作先生と相談して、瞬発力のある凄い馬が相手なので、早目にセーフティーリードに持ち込んだ方が勝機はあるだろうと……」



だから早目に仕掛け、一旦突き放したのだ。
しかし“瞬発力のある凄い馬”と評されたバーイードの脚は、考えていた通りであり、思っていた以上だった。最低人気ながら欧州勢にひと泡吹かせるか?!というシーンを演出したバスラットレオンだが、あっという間にバーイードがかわし、抜け出した。そしてそのまま9連勝目となるゴールを駆け抜けた。



一方、バスラットレオンは最後の最後に後続勢にも来られて4着。矢作調教師は言う。
「勝ったバーイードは確かに強かったです。でも、2着以下とはそれほど差はありませんでした。今回は3月のドバイ以来だったし、起伏の激しいコースだったのに、よく頑張ってくれました。ひと叩きされて、次は平坦なドーヴィルが舞台となるジャックルマロワ賞だから、もっとチャンスはあると思います!!」



 8月14日のジャックルマロワ賞(GⅠ)へ向け、7月30日にはドーバー海峡を渡りフランスのドーヴィル競馬場入り。その1週前のモーリスドゲスト賞(GⅠ)に使うキングエルメス共々、改めて期待しよう。