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田村康仁調教師 インタビュー

■田村康仁調教師とクラブ法人

堀:今回初めてお預かりいただくということで、
厩舎方針や先生が馬の世界に入られたきっかけ等といったところから、
お人柄などを会員さんにお伝えしたいと考えています。



田村康仁調教師(以下、田村):広尾さんとの出会いは
「広尾レースの勝負服をやってみたいんですよね」という話を
うちのオーナーの一人にお電話でさせていただいたところ、
たまたまその席に広尾レースのオーナーがいらして

「広尾レースの馬を正直やりたいなと思っていたんですよ」、
「ええっ、本当ですか」って。(笑)

その後、今年のセレクトセールの日に正式にご紹介を受けて
とんとん拍子にロードカナロア産駒をということになりました。

ぼくも本当にやりたかったですし、馬自体もいい馬をもらって、来年に期待しています。



堀:ありがとうございます。
サンデーローザ'16は、先生に預かっていただくことが決まった後も
「あの馬は決まってますか?」と他の調教師からも問い合わせが多くあったみたいです。

田村:馬は本当によかったですよ。

先ほど申しあげたような経緯があったので、
ぼく自身も自分からやりたいと思っていたクラブだったし、
そういう面では本当にうれしかったです。
実際にもらった馬もよかったですから、本当に気に入っていますね。

堀:おかげさまで売れ行きのほうもすごくて、ほぼ満口です。
うちは2,000口で、他クラブではあまりないぐらいに小口化しておりまして、
普通ですと40口とか50口であれば数十人が関わりますが、
2,000口なので800人、900人といった多くの方が関わります。

田村:そうですか。すごいですね。

棟広良隆(以下、棟広):たぶんこのインタビューを掲載したら満口になると思います。(笑)
(編集注:12/11 満口となりました。キャンセル待ち申込はこちら



田村:そのことは非常に大事で、ぼく自身も調教師としてすごく気にするんですよ。
あまりそういうところを気にされない方もいらっしゃるかとは思いますが、
ぼくはライセンスをもらって開業してから21年目になりますが、
初めて勝ったのがクラブの馬で、開業したときからクラブとはずっとお付き合いがあるんです。

クラブの会員の方たちというのは、
調教師の立場からすると直接はお会いできない場合も多いかとは思いますが
命の次に大事なお金を預けている方々です。
それは金額の大小じゃないとぼくは思います。
なので、そうやって預けてくれている方々に喜んでもらわなければならないんだという気持ちは、
自分が調教助手のときから思っていたことでもあります。



10口とか40口からすごく多いところまでぼくはお付き合いしていますが、
それぞれがどのくらいの売れ行きなのかということに対しては、非常に興味を持っています。
なぜかというと、募集パンフレットに「田村厩舎に入厩予定」と書いてありますよね。
それを皆さんが「えっ、この厩舎なの?」とか「この厩舎だからよい」とかいうのは、
正直あると思うんですよね。それはみなさん言わないだけのことで、
やはり売れる厩舎と売れない厩舎というのは人気のバロメータですから、そこは気にしています。


■長期、中期、短期の数値目標と分析&振り返りの厩舎経営

堀:そういったお声をいただけるのは、私どもとしましても非常に心強いです。
こうしてインタビューの機会をいただけるということもすごくありがたいです。

先ほど助手時代があるとおっしゃっていましたが、先生のご出身についてお伺いしてもいいですか?



田村:私の父も15年前まで調教師をしていて、
祖父もじつは中央競馬。親戚も大井で調教師をされていたり、中央で有名なジョッキーをされていたりしました。

初めて社台レースホースがダービーを勝ったダイナガリバーの同期が
うちの父親が管理していたレジェンドテイオーで、秋になってセントライト記念を勝って、
天皇賞(秋)で2着だったり3着だったりというのがあったのですが、
そういう時代にぼくは調教助手になったんです。

堀:かなり早い時期に調教師試験には受かっていらっしゃいますよね。

田村:32歳の終わりごろに受かったんですよ。父も祖父も調教師だったんでね。

棟広:完全にサラブレッドですね。しかも相当にお若く合格されている。

田村:調教師になるというのは、この世界に入るからには、それはもう絶対的な条件だったんです。
就業して厩務員をやっているその日から
「自分は10年後には調教師になるんだ」という気持ちでいたので、
そういう点では迷いはぜんぜんなかったですね。

堀:それで3年目にはもう二桁勝利をされて、
4年目からずっと17年連続で20勝以上されるというかなり勝ち星を挙げられる厩舎ですが、
開業当初から心がけていたことはありますか。

田村:初年度5勝で、2年目9勝、3年目15勝で、
たしか10馬房ぐらいのスタートだったと思います。
10馬房スタートで、5月の終わりの開業だったんですね。それで5勝した。
翌年はたぶん12馬房か14馬房ぐらいしかなかった。それで9勝した。

堀:そんなに馬房が少なかったんですか。

田村:当時は馬房をもらえなかったんです。
なので、5勝、9勝ぐらいまでは自分の馬房数より勝利がちょっと少なかったですけれども、
3年目の15勝のときはたぶん馬房数くらいは勝っていたと思います。

5、9、15、20で、そこから先はずっとですが、
じつは先日、JRAと交流競走で合算すると500勝になったんです。
1年間の研修期間を抜くと、ちょうどいま20年目にあたるんですね。
そうすると中央と地方と合わせると年間平均25勝で、
20年で500勝ということなので、上を見ればきりがないんですけど、まあまあ…。

棟広:すごいですね。月に2勝はしないといけませんね。

田村:昔はJRAからもらう手帳には、500勝以上の調教師の記載があったんですね。
いまはないですけれども。なので、500勝という数字にはすごくこだわりがあったんです。
開業当初から、自分の大きな目標の一つに500勝がありました。

堀:先生は、そういった数値目標というのはけっこう大事にされますか?

田村:しますね。すごく数字が好きなんです。

短期の目標と中期の目標と長期の目標を常に持って、
ちょっとがんばったらできる目標を短期では作っておいて、
中期では、本当にがんばらないとだめなんだけれど5年後ぐらいはこうしておきたいとか、
大きな目標としては先ほど言った500勝を目標とするなどです。

棟広:それを先日達成された。

田村:だから年の初めに
「いまの厩舎の戦力からいって、だいたい何勝ぐらいできそうだ」
と自分で分析をしておいて、1年が終わったときに振り返りをします。
そうでないと、総指揮を執っている人間として、
まったくビジョンがなくて、自分の兵隊の戦力がわかっていないということになります。

実際には、たとえば25勝しても、
本当はもう少し勝てたはずなのに勝てなかったりとか、そういうイレギュラーはありますが、
分析結果を達成するためにはどうするのか考えを練るのが、気性的に好きなんだと思います。



堀:1勝を得るなかでも、たとえば逆算して、ここで休ませて、
ここで使い出してというのも、だいぶ細かくスケジューリングされるほうですか。

田村:それはすごくすると思います。

うちの厩舎はいまたぶん関東で13位とか14位だと思いますが、
20年で500勝できているのは、
そうしたスケジューリングをして、確実に勝てるところを狙うんです。
 

■確実な勝利への合理的レース選択

棟広:やはりレース選択は重要視されますか。

田村:かなり考えます。

棟広:たとえば過去の馬で言えば、
ディアジーナは桜花賞をパスされてフローラステークスに出走されたじゃないですか。

それも一つの戦術ということですか。

田村:桜花賞に行かないということは、その世代の上位の馬18頭がいないんです。
それで、フローラステークスはG2ですよ。賞金がでかいです。

棟広:そうですよね。たしかにでかいです。

田村:そうすると、19番目以降の馬たちの18頭です。
なので、オーナーに
「桜花賞はちょっとしんどい。確実に重賞タイトルを獲って、
牝馬としての価値を上げて勲章をつけるためにはここをパスして、
こっちに行ったほうがいい。3つレースがあるから、1つは必ず勝てる」
といったら、3つのうち2つ勝ったんです。

棟広:たしかにそうですね。メンバー・レベルが下がっても、賞金は一定ですからね。
今週使わないといけないという条件の馬というのはたくさんいると思いますが、
ある程度賞金を持っている馬は自分からレースを選べるじゃないですか。
その立場にいて失敗というのはしたくないですものね。

田村:より確実に勝てる可能性の高いところを狙っていくというのは、当然のことです。

レースは関東エリアにも関西エリアにもたくさんある。
芝とダートもある。いまは距離の体系も確立されているので、
短い距離、中距離、長距離ときちんと分かれている。
昔とくらべていろいろと使いやすいところがあると思います。

そうなったときに、自分の馬の戦力を考えなくてはいけない。
たとえば未勝利の馬で勝たせなきゃいけないというときに、
「この馬は本来の走りは、たぶん芝なのだろうな」というときがあると思います。
でも、芝は強い。それで芝に行ったときに、
「このメンバーが相手だとどのくらいの着順になるのかな」と考えます。

一方で、ダートに行ったときに、
「ダートはこの馬は得意じゃない。でも、ダートのメンバーが弱いじゃん」
というときもある。

そうすると、芝とダートの適性においては間違った選択をしているけれども、
メンバー的にダートのほうが弱いし、たとえば
「木曜日に雨が降った。そうすると土曜日の競馬では絶対に良馬場にならない。この日は『稍重』か『重』だな」
といったときに、
「ダートの砂さえ被らなければ、もしかしたらいいことがあるかもしれないから出てみたらどうか」
などと考えるんですよ。



堀:それは馬主サイドである会員さまの立場としても頼もしいと思います。

棟広:会員さまもそのレースを選んだという理屈をきちんと説明していただけたら、
もし結果が出なかったとしても、納得できますからね。

田村:区切りのあるゲームですからやはり勝たせないと意味がない。
そうすると、会員さんにとっては、勝ち残るか勝ち残らないかで、
自分の出資した馬が3歳9月で終わってしまうのか、
勝ってもう1年とか2年楽しめるかというのは大事なことですよね。

棟広:そこの1勝で余儀なく引退か、そのあと走れるかは本当に大きな差があります。

田村:年間に走れる回数は平均すると5回前後しかない。
18頭立てで、仮に5回しかなかったら、順繰りに平等に順番が回ってきたって
勝てないじゃんという話です。18回使えないから。(笑)
そこをすごく考えます。

棟広:18分の1が5回では必ずしも順番は回ってこないわけですからね。

田村:そうです。
だからどうしても中央では苦しいと思ったときにはオーナーにお願いして、
「交流に行きましょうよ」
と。
だから交流競走で20年間で54勝しているんです。
中央の3歳未勝利では勝てなくても
古馬になったときには中央で500万下条件を勝てる馬もいます。
そうなれば、
「ここは地方で勝たせよう!」
という考えになります。

堀:いまはだいぶ競走体系が早くなっているから、
勝たなきゃいけないタイミングも早くなっていますよね。

田村:そうです。

堀:うちのクラブとしても、期待はできるけれども遅い血統であったりすると苦労します。

棟広:たしかに以前だったら、福島開催が1日12レース中7レースぐらい未勝利というときがあったのが、いまはもうないですからね。

田村:6月開催の3回の東京で新馬戦が始まりますが、翌年の秋で終わる。
それで、大手のすごいところが6月から入ってきます。
うちのメジャーエンブレムだって、そこから入って結果的にはG1を獲っているわけです。
6月から本気で入ってきて、秋にもさらに本気でデビューさせる。

だから大手以外の馬も虎視眈々とよく見て、入っていかないとだめです。
6月から億を超える馬が入ってきているわけですから、
のんびり構えていられないですし、
自分の馬の戦力をよく見ていないと、うまくいかないということです。


 

■田村康仁調教師とディアレストクラブ高樽代表との絆

堀:ディアレストクラブと先生は信頼関係と言いますか、
育成牧場としてよく使われておりますがディアレストクラブとのつながり、
信頼できる理由など、そういったところはありますか。

田村:ぼくは技術調教師のときに、ご紹介で高樽さんと知り合ったんです。

ぼくは新人の何もわからない技術調教師で、
むこうも立ち上げたばかりの小さい育成場の社長だった。
そこが人の紹介でポンとくっついた。

彼が牧場で場長など経験しながら独立したまさに1年目か2年目だったんです。

ぼくはまだライセンスはとったけれどもよくわかっていない状態。
その中でこの高樽秀夫さんが手取り足取り教えてくれたんです。
そういう関係で、ぼくは自分の1歳の育成馬を当然ディアレストに預けたし、
彼も馬主さんになって預けてくれたわけです。

いまでこそディアレストは大きな牧場になっていますけれども、
本当に最初期のときに馬の見方のノウハウとか手取り足取り教えてくれたのが高樽さんで、
いまのぼくがあるのは本当に高樽さんのおかげです。

だから高樽さんがオーナーであるディアジーナが重賞を勝ったり、
レッドアゲートが勝ったりしたのは本当にうれしかったし、
ぼくがメジャーエンブレムでG1勝ったときも、
「よかったね。俺より先に獲っちゃったけど、よかったね」なんて言ってくれました。



堀:見方とか育成技術についても、高樽さんはその当時からかなり優れたものをお持ちだったんですか。

田村:持っていたと思います。
高樽さんが預かっていた他の馬主さんの馬を「これは走る。田村にやらせてくれ」
って段取りしてくれた馬が走ったりするなど、橋渡しをしてくれたりもしました。

だからぼくは彼からの馬はどんな馬でもやっていますよ。値段は関係ない。
彼から言われた馬は、「社長、悪いんだけど、今年3頭ね」とか、
そういう生意気なことは言ったことがない。言われた馬は全部やります。

堀:それが先生の厩舎では安くても走るという評判につながるわけですね。

田村:馬を走らせるのはお金の大小じゃないだろうという話ですよね。
一口クラブにおいても40口だったら何百万とか、ものすごい金額の人もいるし、
それが500口とか2,000口になれば、とりあえず金額は下がってきますよね。
だけど、金額の大小じゃないだろうと思います。
大事なお金は大事なお金なんですから。

だからジョッキーも選びますよ。
もちろんなるべくいいジョッキーにしてあげたい。
だけど、それがいいのか、ちょっと落ちるジョッキーだけど一所懸命に乗るジョッキーがいいのか、
よく考えましょうよということになります。

そのあたりのところも、やはりきちんとした説明をして納得していただくことが重要です。
やはりクラブにとっては会員さんに満足していただくのが一番重要です。

「戸崎圭太でだめだったら納得するけど、こいつじゃあ納得しない」というのもわかります。
 

■物事の本質を考えた馬の移動方針

堀:募集の際のコメントを頂戴した時に3月頃には内地に移動させたいというお話を聞きました。
この点についてお考えをお聞かせください。

田村:北海道は桜が咲くのは5月。連休あけです。
関東はもう2月の立春を過ぎたら、あとは暖かくなる一方。
終わりのあるゲームだからと思うと、やはり先に先に進めたほうが有利です。

ですので、ぼくはもう何年か前から最初の段階は北海道に置いておいてもいいけれども、
年を越してある程度になってくると、みんなこっちに移動してくるんです。
内地に移動してまたふるいにかけて、
「この馬はわりと早い段階でゲート試験まで受かるな」と思えば
4月とか5月に入れてゲートを受からせて、「いけるな」と思えば、そのままいきます。
だから今年最初の土曜日の新馬で勝ったのはうちの厩舎のヴィオトポスでした。

「これはいけるな」と思ったら、「いきましょう」となりますし、
「ゲート試験は受かったけど、これはだめだな」と思うと下げます。

堀:下世話な話ですけれど、高樽さん側からして、
北海道にいる期間がだいぶ短くなると経営的にいやがったりしないのかなということは考えてしまいますけど、
それはぜんぜん気にしないんですね。



田村:そういうことは、正直あると思います。
あると思うけど、物事の本質は何なのかということをやっぱり考えます。

物事の本質はオーナーを喜ばせることが第一です。

調教師というのは、馬の方向性に関して如何様にもさじ加減ができてしまう権限を持っているからこそ、
物事の本質はどこにあるのかを考えなくてはいけません。

「これは移動させたほうがいいな」という馬に関しては移動させるし、
「たしかにちょっとまだだな」という馬に関してはまだいいやと。

そこに、「ここで出されたら困るんだろうな」ということは、あまりぼくは考えないようにしています。
だってそうやって育成牧場のことを考えていたって、
結果がでなければ広尾レースに捨てられるんですよ、ぼくは。(笑)

堀:期待に応え続けていかなくてはならいということですね。

田村:期待に応えていかなければ、最終的には捨てられるわけです。
だから、馬主さんにおべっかを使うつもりはないけれども、
馬主さんにとって一番損失が少ないやり方は何なのかということを考えないと。

それがすなわち自分の厩舎にとって損失が少ない経営の仕方になるし、
より勝つ可能性が高くなるということになる。

堀:ありがとうございます。非常に馬主サイドとしては泣きたくなるぐらいうれしいお話です。

内地では高木競走馬育成牧場を使われるとお聞きしたのですが、
そちらはどういったところが気に入って使っておられるのですか。

田村:もともと育成場はいろいろなところを使っていて、現状もいろいろなところを使っています。
高木競走馬育成牧場というのは、うちの助手の高木大輔君の実家で代々馬主さんもされている老舗です。
私が開業したときから高木競走馬があったことは知っていましたが、
自分の従業員の実家だからという都合は馬主さんには関係ない。

だから使っていなかった。でも、何かのときに1頭か2頭預けたんです。
そうしたら自分の期待に応えられるような仕上げで帰ってきた。
そういうかたちでようすを見ていたら、気がついたら割合が圧倒的に高木になっていました。

堀:実績に裏打ちされて、自然となっていったという。

田村:そうです。自分のところの従業員の実家だからというような温情は何もない。
それをやると、先ほど言った
「北海道から早めに下げちゃうと辛くないですか」
というところで、そっちはそうして、こっちはそうなのかということになってしまうので、
そこはぼくは一貫性を持たせなくてはいけない。

自分にとって、厩舎にとって都合のいいやり方は何かと言ったときに、
少し暖かくなったら内地に移動する。
育成場も、いろいろな育成場があるから付き合っているけれども、
一番成績の上がるところはどこなのか。

そこに私情は関係ないでしょう。

堀:同じことは馬主サイドにも言えて、私どももいい馬を提供していかないと、
なかなか預かっていただけなくなるというところもあるので、
たぶんそれぞれのプレイヤーのみなさんが、
我々も、先生方も、育成牧場もベストを尽くしていくというところに結果が出てくるのですね。

田村:そう思いますね。

堀:ありがとうございます。

今回会員さまからいくつか質問をいただいております。
「馬を預かるにあたって一番大切にしていることは何ですか」という質問があります。

田村:会員さん向けに言えば、会員が納得するかしないかの一点です。
会員が納得するだけの仕事をきちんとすることが求められていると思います。

棟広:断るケースはあまりないですか。「この馬じゃあちょっとな……」ということは。



田村:基本はないですね。
その前段階が、うちの馬のオーナーさんから紹介された広尾レースのオーナーであって、
紹介をされた方から「先生やってくださいよ」と言われたのがサンデーローザ’16だった。

ぼくはいい馬だと思っていますけれども、
たとえばそれが跛行している馬だったら、
それが自分のいまの評価ということですからいいんです。

堀:そして、結果を出すから、馬主側も「次は……」ということになるサイクルですね。

田村:はい。でも、皆さんにはやっぱりいい馬をいただいていると感じています。
 

■ロードカナロア産駒の特徴

堀:男気が溢れていますね。
お答えしにくい質問に答えていただき、ありがとうございます。

次に、ロードカナロア産駒についてですが
「ロードカナロア産駒として脚長かと思いますがこのことがどう影響してくるのか。
また、適性距離を知りたいです。2016年産では期待の1頭だと思うので上のクラスで活躍してほしいです」

また
「グランドピルエットが新馬勝ちしましたが、実際に調教をつけられてみて、
ロードカナロア産駒の特徴はどのようにお考えですか」
という質問が来ています。

田村:ロードカナロア産駒って何頭も手がけていますが、
非常に馬が前向きなので、気性的には新馬向きだとぼくは思っています。

この種馬は当たると思うんです。
イメージ的には仕上げやすいタイプの馬が多いとロードカナロア産駒に対しては思っていますね。
 

■サンデーローザ’16の評価と今後の方針

堀:サンデーローザ2016のほうは、いまのところどんな評価をしていますか。



田村:順調に育っていると思います。
(立ち写真を見て)胸前だったり、肩の奥行きだったり、トモの感じだったりというのは、
これをパッと見て、「ええ、こんなのやんの」というふうには、たぶん調教師で思う人はあまりいない。

人間ですから、そのブラックタイプを見て種付け料が高ければ安心するし、
母ちゃんに走る馬がいっぱいいたら安心する。

それはクラブを経営している人たちもそうだろうし、会員もそうだし、実際にやる調教師もそうなんですよ。
実際にやってみなきゃわからないですが、
裏付けがほしいから色々なファクターを求めているんです。



堀:何かの下とかですね。

田村:そうそう。「何かの下」とか「500万の種付け料」とか言われると、
いいかもしれない、いいに違いない、いいと思いたいじゃないですか。(笑)

だけど、何も知らずに見ても、べつに何も悪いところがないなら、充分じゃないのってぼくは思うんです。

脚が短いとか長いとかいろいろなことはその馬の持っている個性の問題なので、
それと仲良く付き合えばいいだけのことです。
いま現状これがまったく問題がなければ、いいんじゃないのって感じです。

堀:いま育成牧場のほうでも一番早い組で進んで順調に行っているということですね。

棟広:そういった意味では、お父さんの子どもが活躍してくれているというのは、その裏付けの一つとして、うれしい材料ですよね。

堀:お父さんによって傾向は変わるんでしょうけれども、もちろん個性があるわけですから、
それも実馬を見て、接し方を変えていかれるわけですね。

田村:そうですね。「育成場でどう」って聞いて、「これはいいですよ」とか何とかいろいろ聞いても、
たとえば芝なのかダートなのか距離が長いのか短いのかというのは、
実際に厩舎に来て自分の管理下になって、ゲート試験に受からせて、
その過程を見て自分のところのスタッフと相談します。
そこまでは、はっきりしたことはわからないと思うんですよ。

明らかに、「この兄弟は全部芝だよね」とか
「父親によって変わっていくよね」という兄弟はいます。
そういう場合は漠然とはわかりますが、
そこで思い込まずに実際に手許に来て、
たとえば、ゲート試験のダートを走らせた感触から、
「ダートの動きはよかったです」とか報告を受けながら、
「どうしようかな」と考える。

だから、いまの段階で「これは必ず短いところだ」とか
「これは必ず芝なんだ」ということを、頭で決めつけないほうがいいと思っています。



堀:「15年近く一口馬主を続けておりますが、デビューしてからその馬の適性を見極めるのに1年以上もかかり出世が遅れるというケースが多く、それが一番悲しい」
という声もいただいておりますが、固執してしまうと、
見極めるのに1年とかかかってしまうことになってしまうんですかね。

棟広:でも、やっぱりクラシックというか、
目標のところのレース形態というのは決まっているから、
最初はそこを目指して、だめだったときに真の適性へという流れが、私は普通だと思いますけどね。
やはり一番賞金が高いレースというのは条件が決められているわけですから。

それはもちろん、なるべく早くに適性がわかるに越したことはないですけど、
一応そこに向けて、ダートだろうけど最初は芝に下ろすというのは、ありだと私は思います。

田村:会員さんの夢もありますからね。
ただ、頭をやわらかくして、番組体系、適性など様々なことを踏まえて考えていくのが重要です。

堀:先生のお考えをお聞きするにつれて、私自身がファンになりました。
期待の声もたくさんいただいています。
その中には
「桜花賞に出てほしいです」
「新馬勝ちできますか」
「早くからの活躍を期待しています」
というのがあります。

早期デビューだったり、桜花賞などクラシックへの期待をされる方は多いです。
馬が最大限の力を発揮できて、長く活躍してくれることを期待しています。
ぜひともよろしくお願いします。

田村:これはサンデーローザ’16に限った話ではないですが、
なるべく早く使いたいというようなことに応えるためには、
やはり育成場も、暖かくなったら移動するし、
そこで様子を見て、いけそうだったら入れて、
ゲート試験だけでも受からせます。

そこから先で「進みが悪いから夏は使いません」ということになるかもしれませんが、
一つ一つ進めていくということは非常に重要でチャンスが広がります。
トピックスがあった方が会員さんも嬉しいですしね。

堀:ありがとうございます。
今回のこのインタビュー内容を公開しますと、
先生のお人柄が会員の皆さんに伝わるかと思います。

私どもとしてもとても深く理解することができました。ありがとうございました。

棟広:ありがとうございました!

田村:こちらこそ。今後ともよろしくお願いします。



【今回取り上げた募集馬】
サンデーローザ' 16
美浦・田村康仁厩舎予定
牝1歳 鹿毛 2016.02.22生 平取産

父:ロードカナロア 母:サンデーローザ (母の父:サンデーサイレンス)
販売総額 2,000万円 / 総口数 2000口
一口価格 10,000円