archives
合田直弘のWorld Standard! 広尾サラブレッド俱楽部 11月募集馬解説! 

合田さんならではの視点から募集各馬の解説をいただきました。



Wildwood’s Beauty 2024
米国で、4つの準重賞を含む7勝をあげた他、キーンランドのG1マディソンS(d7F)4着を含めて3重賞で入着した活躍馬ワイルドウッズビューティの初仔となるのが本馬だ。
勝利した4つの準重賞のうち、3つは2着以下に3馬身以上の差をつける楽勝で、勝つときの鮮やかさには定評があったのがワイルドウッズビューティだった。通算収得賞金65万ドル(約9230万円)というのは、賞金の高い日本の競馬に当てはめると目立たぬ数字のようにも見えるが、米国で牝馬が稼ぐ額としては、非常に優秀な数字と言えよう。さらに、2歳11月のデビューから、ラストランとなった6歳10月まで、31戦を消化。その壮健さは、必ずや産駒にも伝わるはずである。同時に、ワイルドウッズビューティは2着が11回あり、58%という極めて高い連対率を誇った馬だ。肉体面の壮健さだけではなく、どのような状況下でも確実に上位に食い込む、強い精神力も持った牝馬だった。
本馬は、その母の初仔となるが、充分な馬格をもって生まれてきている。
父も、この世代が初年度産駒となるフライトラインだ。現役時代の戦績、6戦6勝。4歳の8月、米国西海岸の精鋭が集うデルマーのG1パシフィッククラシック(d10F)を、19.1/4馬身差で快勝。このパフォーマンスをもってして、ヨーロッパのフランケルに比肩するレーティング140を獲得。米国競馬史でも屈指の能力を持つ名馬中の名馬との評価を得た馬であることは、競馬ファンの皆様には改めて説明するまでもないかもしれない。
これだけバランスのよい走りをする馬を、見たことがなかったというのが、筆者の個人的感想である。全身を無理なく無駄なく連動させて推進するから、見た目の力感は感じさせぬとも、スピードの絶対値が違っていたのだ。
14年から16年まで3年連続で全米リーディングサイヤーとなったタピットの、最有力後継馬であることは間違いなく、種牡馬として計り知れないほど大きな期待を背負っている。ラストランとなった22年のBCクラシックの直後、フライトラインの2.5%の権利がキーンランド・ノヴェンバーセールに上場され、460万ドルで購買された。これをもとに算出すれば、フライトラインの総価値は1億8400万ドル、当時のレートで換算して272億円という天文学的数字になることが、競馬サークルを超越した話題となった。その初年度産駒の1頭に、出資できるチャンスがあるということ自体、競馬ファンからすれば、生涯に一度訪れるかどうかの僥倖と言えそうだ。
フライトラインのデビューは3歳の4月で、3歳春の3冠とは無縁だった。これは、2歳の2月にゲートの掛け金と接触して外傷を負ったことが原因で、実は、フライトラインの右トモにはこの時の傷跡が残っている。決して、仕上がりの遅いタイプではなかったことは、ぜひ記しておきたい。
父フライトラインも、母ワイルドウッズビューティも、米国競馬におけるスピードの根源であるミスタープロスペクターを3本持っている。本馬は同時に、ストームキャットの5×5も内包しており、まずは、絶対的スピード能力の礎は備えていると言えよう。
また、本馬の母の父カンタロスは、ヘイルトゥリーズンのインブリードを持つのが特性の1つだ。父フライトラインも、母方にロベルトを経由したヘイルトゥリーズンも保持しており、日本の競馬への潜在的適性も、しっかり備えた馬と言えそうだ。
この馬の未来図を想像すれば、路面を問うことなく、スピードが武器になる馬であることは間違いない。放牧地では、スムーズにストライドを伸ばす動きを見せており、既にして高い運動能力の片鱗をのぞかせている。母の父カンタロスが、2歳5月にデビューし、2歳時は3戦して2つの重賞を含む3連勝を飾った馬であることを鑑みれば、父の成績欄では空白になっている2歳時から、最前線に台頭する馬に育つことが期待される。
 
 
Belcarra 2024
まずは、実に魅力的な背景を持っているのが、本馬の母ベルカーラである。その特性を端的に形容すれば、底力とスピードの融合だ。
同馬はアイルランド産馬だが、背景に持つのはドイツ血統である。ドイツ血脈を注入された日本における活躍馬は、Sライン出身の馬たちを中心に枚挙に暇がない。
ベルカーラも、その母ベラクーラも、その母ベヤリアも、ドイツで生まれ、ドイツで勝ち馬となっている。ベラクーラの兄弟には、G2ヨーロップカーマイレ(芝1600m)やG3エッティゲンレネン(芝1600m)を制したベルナルドン、G3バーデン貯蓄大賞(芝2000m)を制したブダイと、ドイツにおける重賞勝ち馬が2頭いる。ベルカーラの3代母ブリジダは、当時はG3だったドイツ1000ギニー(芝1600m)勝ち馬だ。
ドイツと言えば、24年を例にとれば、G1に格付けされている7競走のうち5競走が2400mという、2400m戦偏重の番組編成を行っている国だが、そんな中にあって、1600mを中心に2000m以下で活躍馬を出しているのが、このファミリーのポイントのひとつである。
ベルカーラの母の父はロミタスで、祖母の父がケーニッヒシュタールと、ドイツにおける名馬にして名種牡馬を、代々配合されているのも筆者の好みである。
前述したような番組編成であるゆえ、ともすれば「重い」と言われるのがドイツ血脈だが、これを払拭する材料となっているのが、ベルカーラのトップラインだ。父エスティダカールは、英国における2歳G2スペラティヴS(芝7F)やG2シャンパンS(芝7F)の勝ち馬だ。その父ダークエンジェルは、ハリーエンジェル、バターシュといったスプリントチャンピオンを送り出している、ヨーロッパのトップサイヤーである。今年春のG1高松宮記念(芝1200m)を制したのは、ダークエンジェル産駒のマッドクールだったから、日本の競馬ファンにも既にお馴染みの種牡馬であろう。
こういう配合で生まれたベルカーラは、2歳秋にLRシーザムーンレネン(芝1400m)を制し、3歳春にG3シュヴァルツゴルトレネン(芝1600m)を制覇。そして、G2ドイツ1000ギニー(芝1600m)で3着となっている。仕上がり早で、素軽さも備えていたのが、ベルカーラだった。
その母の初仔として生まれたのが、本馬である。初仔としては、馬格に恵まれた本馬の父は、ヨーロッパのトップサイヤーであるシーザスターズだ。3歳だった09年、G1ばかり6戦して、そのすべてに勝利を収め、ヨーロッパ年度代表馬に選ばれた馬である。G1英国ダービー(芝12F6y)やG1凱旋門賞(芝2400m)の印象が強烈ゆえ、チャンピオンディスタンスの馬と思われがちだが、3歳初戦は3冠初戦のG1英2000ギニー(芝8F)で、つまりはマイルのクラシックを勝ち切るスピードもあったのがシーザスターズだ。さらに言えば、2歳秋にG2ベレスフォードS(芝8F)を制しており、仕上がり早の側面も兼ね備えていた馬であった。
もう1つ付け加えれば、G1英2000ギニーや、3歳夏にG1インターナショナルS(芝10F56y)を制した時、ニューマーケットやヨークの馬場は Good to Firm という、ヨーロッパのスタンダードからすれば硬くて速い馬場だった。つまりは、そういう条件のレースにも対応していたのがシーザスターズだったのだ。
競馬ファンには言わずもがな、シーザスターズはガリレオの半弟だ。ガリレオや、その父サドラーズウェルズの直仔が、ヨーロッパでの大成功とは裏腹に、日本では機能しなかったため、シーザスターズも敬遠されたのか、日本に入ってきた産駒は少ない。だが、ガリレオの弟というフィルターのみで捉えた時のシーザスターズの刷り込みが、正しくないことは、ここまでの説明でおわかりいただけたと思う。
繰り返すが、母のサイヤーラインはヨーロッパ随一のスピード血脈だし、配合表には米国におけるスピードの祖であるミスタープロスペクターも登場する。さらに、ダンジグのインブリードも持つのが本馬だ。血統の第一印象とは趣を異にして、2歳戦から台頭し、距離的にはマイルを中心に活躍する馬になるというのが、筆者の見立てである。
 
 
モアザンセイクリッド2023
本馬は、昨年のG1菊花賞(芝3000m)勝ち馬ドゥレッツァの半弟にあたる。
デビュー2戦目から無傷の4連勝を飾っての出走だったのが菊花賞だったが、そこで見せた同馬の強さはまさしく破格だった。
大外枠から出て、いささか掛かり気味にハナに立った同馬。長距離戦の入り方としては、理想とはかけ離れた形となった。落ち着いたと見るや、2周目の向こう正面に入った段階でルメール騎手は、同馬を3番手に下げて3コーナーへ。坂を下りきった辺りで鞍上が出したゴーサインに応えて、まもなく再び先頭に立った同馬は、そこから他馬を3.1/2馬身突き放す快勝。2着が同世代のダービー馬で、3着が同世代の皐月賞馬であったこのレースは、出走馬の能力が紛れなく発揮された一戦で、だからこそ、公式ハンディキャッパーも日本における23年の3歳牡馬ではドゥレッツァを最上位に格付けしている。
母のモアザンセイクリッドは、オーストラリア産馬で、2馬身差で快勝したG1ニュージーランドオークス(芝2400m)を含めて3重賞を制した活躍馬だった。この馬の配合表を見ると、3代目に、ヘイロー、ウッドマン、ダンジグ、カーリアンと、見事なまでに日本の競馬との親和性が高い種牡馬が並んでいる。日本で繁殖入りし、日本でクラシックホースの母となったのが、必然と思われるような背景を持つ馬である。
そのモアザンセイクリッドの7番仔で、ドゥレッツァの3歳年下の半弟になる本馬を生産したのは、ユーロン・インヴェストメンツ社の張月勝氏である。
モンゴル自治区出身で、幼少の頃から馬に囲まれて育った張氏は、鉱山業で財をなした後、競馬と生産の世界に参画。わずか20年ほどの間に、1000頭以上の繁殖牝馬と、数百頭といわれる現役馬を所有する、一大組織を作り上げた。世界的に見て、数の面でも質の面でも、クールモア、ゴドルフィンに次ぐ、第3の核となりつつあるのが張氏のユーロン・インヴェストメンツ社である。
世界各地の繁殖牝馬セールや現役馬セールで、積極的な購買を行っている張氏は、牝馬や現役馬の質が世界基準に到達している日本にも目を向け、22年10月のノーザンファーム・ミックスセールで、およそ2億6000万円を投じて13頭の牝馬を購買。そのうちの1頭が、ブリックスアンドモルタルを受胎して上場されていたモアザンセイクリッドだった。
同年12月、張氏はモアザンセイクリッドを、ユーロンのヨーロッパにおける拠点であるアイルランドに移動させ、23年5月8日にアイルランドで生まれたのが、本馬である。バランスの良い好馬体を持つ本馬を、張氏はヨーロッパで現役として所有する予定だったが、本馬を取り巻く状況が劇的に変転したのが、昨年秋だった。言わずもがな、兄が日本でクラシックホースとなったのである。
日本で走らせるほうが、馬にとっても良いのではないか。そんな考えが、張氏の頭をよぎったとしても、不思議ではない。
その頃、そんな張氏と太いパイプを築きつつあったのが、広尾サラブレッド倶楽部だ。広尾が所有し、23年から種牡馬入りしたパンサラッサを、南半球の繁殖シーズンにおいては、張氏がオーストラリアのヴィクトリア州に持つユーロンスタッドで供用することで合意。北半球での種付けを終えた後、パンサラッサはオーストラリアへと雄飛している。
このディールを通じて強固な信頼関係を築いた広尾サラブレッド倶楽部からのオファーに、張氏が応えて、モアザンセイクリッドの2023は広尾サラブレッド倶楽部の一員となった。
同馬は、英国のニューマーケットにあるキャッスルブリッジ・イーストで馴致や初期調教を行った上で、24年11月に日本に移動する予定となっている。 
兄のドゥラメンテから、本馬は父がブリックスアンドモルタルに変わった。19年の全米年度代表馬で、初年度産駒がデビューした23年、ファーストシーズンサイヤーランキングで2位に入った同馬。今年から導入されたNARのダート3冠に牝馬ながら挑戦し、羽田盃2着、東京ダービー3着の成績を残したアンモシエラの父であるからして、広尾の会員の皆様には既にお馴染みの種牡馬であろう。
ダートの精鋭を送り出した父ではあるが、母や兄の実績、ノーザンダンサーの色合いが濃い本馬の血統背景を考慮すれば、モアザンセイクリッドの2023の主戦場は芝になる可能性が高いと筆者は見る。それも、1800m以上の距離で才能を開花させる公算が高い。となれば、兄が取り逃がしたヨークのG1インターナショナルS(芝10F56y)を勝つことが、ミッションの1つとなりそうである。
 
 
パドックシアトル2023
まったくもって途轍もない種牡馬が現れたものだと、感銘を覚えるのがキタサンブラックである。
初年度産駒から、23年の世界ランキングで首位に立ったイクイノックスが出現。これだけでも、ドエライことだが、2世代目からもG1皐月賞(芝2000m)勝ち馬ソールオリエンスを含めて、3頭の重賞勝ち馬が登場。やや停滞気味だった3世代目からも、3歳秋を迎えた段階でG2紫苑S(芝2000m)を制したクリスマスパレードが出現。何よりも驚かされたのは、4世代目の産駒から、2歳7月の段階でG3函館2歳S(芝1200m)を制したサトノカルナバルが登場したことで、クラシックディスタンスでの活躍馬に加えて、1200mの2歳重賞を勝つ馬まで送り出すとなると、種牡馬としてはまさにオールマイティである。サンデーサイレンスの血脈、恐るべしだ。
そのキタサンブラックの5世代目の産駒の1頭となるのが本馬で、父の産駒らしい、柔らかな動きをする馬に育っている。
背景に持つのは、アルゼンチンの血脈だ。近年では、マカヒキ、サトノダイヤモンド、レシステンシア、ダノンファンタジーなどが、アルゼンチン血統をもつ活躍馬である。アルゼンチンの芝コースは、ヨーロッパなどに比べると高速馬場で、そのあたりが日本の競馬との親和性につながっているようだ。90年代から00年代にかけて、アルゼンチンでリーディングサイヤーの座に10回就き、近年で最も成功した種牡馬と言われたのは、ヘイローの直仔サザンヘイローで、成功する血脈という面でも共通項がある。
アルゼンチン産で、アルゼンチンで競馬をしたのが、本馬の母パドックシアトルだ。2歳秋にデビュー。3歳春にG3ディエゴホワイト賞(d1700m)、4歳春にG2ラモンビアウス賞(d2200m)を制している他、G1セレクシオンデポトランカス大賞(d2000m)3着、アルゼンチンのオークスにあたるG1セレクシオン大賞(d2000m)4着などの実績を残した。
さらに、これもアルゼンチン産で、アルゼンチンで競馬をした3代母のシアパレイドは、2歳秋のデビューから4歳秋のラストランまで、丸2年余りの間に26戦もこなしたタフな馬だった。そんな中、3歳秋にG2アルトゥーロRブルリッチ賞(d2000m)、4歳春にG2ラモンビアウス賞(d2200m)を制している他、G1エストレラスディスタフ大賞(d2000m)4着などの実績を残している。
母の父シアトルフィッツもアルゼンチン産馬だが、競走馬としての実績を残したのはアメリカで、G2ブルックリンH(d9F)など3重賞を制覇。そのブルックリンHの勝ち時計1分46秒30は、セクレタリアトが持つトラックレコードに0.9秒差に迫る優秀なものだった。さらに、現在はペガサスワールドCの名称で施行されているG1ドンH(d9F)2着という実績も残している。
前段で記したように、距離に関する汎用性があるキタサンブラック産駒ではあるが、本馬は、1800m以上の距離に適性がありそうだ。
日本の軽い芝に合うリファールのインブリードを持つキタサンブラックの産駒は、現在のところ、活躍馬が芝に偏りがちだ。一方で、母はシアトルスルー、ミスタープロスペクター、スワップスらが配合上のキーストーンとなっており、母方が強い影響力を行使すれば、本馬がダートに活躍の場を求める可能性もありそうである。
 
 
アンジュシュエット2024
父のキタサンブラックに関しては、パドックシアトル2023の項目をご参照いただきたい。2000mから3200mのG1を7勝した、21世紀の日本に出現した最高の名馬の1頭であり、なおかつ、産駒のイクイノックスと横並びで最高金額の種付け料を設定された、現在の日本における最高の種牡馬の1頭である。勝利の多くが、自らハナに立ってレースを作った上で手にしたもので、主戦を務めたレジェンド武豊騎手をして、「1600mのG1に出ても勝てる」と言わしめたスピードを持った馬でもあった。
そして本馬は、現役のオープン馬ヘリオスの半妹にあたる。準重賞グリーンチャンネルC(d1400m)を含めて8勝をあげている他、JPN1マイルCS南部杯(d1600m)2着、JPN1JBCスプリント(d1200m)3着などの実績を残しているヘリオスは、2億6180万円の賞金を収得している(成績は24年9月20日現在)。
祖母ショウナンガットの父がフジキセキ(その父サンデーサイレンス)で、父オルフェーヴルのヘリオスが持っているサンデーサイレンスの3×4を、父キタサンブラックの本馬も保持している。
母アンジュシュエットの父は、フレンチデピュティだ。G1ジャパンC(芝2400m)など2つのG1を制したショウナンパンドラ、G1日本ダービー(芝2400m)勝ち馬マカヒキ、G1チャンピオンズC(d1800m)など2つのG1を制したゴールドドリームらが、母の父にフレンチデピュティを持つ活躍馬たちで、母の父としての有効性を実証済みなのがフレンチデピュティである。 
父キタサンブラックの現役馬では、ガイアフォースが母の父クロフネ(その父フレンチデピュティ)で、配合的には類似している。そのガイアフォースは、G2セントライト記念(芝2200m)を制している一方、G1フェブラリーS(d1600m)2着の実績も残している。本馬も二刀流の可能性はありそうだが、本質は芝のクラシックを目指す馬だと見ている。
そして、父も兄も頑健さが特性の1つで、本馬もまた丈夫に走り、よく賞金を稼ぐ競走馬に育ちそうである。
 
 
 
サダムノンノ2024
キングカメハメハ、ディープインパクト、サンデーサイレンス、ブライアンズタイムと、日本の近代競馬を牽引してきた名種牡馬の名が、配合表に目白押しなのが本馬である。
父レイデオロの3代母はウインドインハーヘアで、母の父ディープインパクトの本馬は、ウインドインハーヘアの3×4を持つという、おそらくはこれを意図した配合となっている。なおかつ本馬は、ロベルトの4×5も合わせ持っている。
母はヘイルトゥリーズンの4×4を持つ馬だが、父も5代目にヘイルトゥリーズンを持ち、この血脈をさらに補完している。つまりは、凝った作りの血統構成なのだ。
現役時代は門別と南関東で9勝をあげたのが、母サダムノンノだ。2歳秋のデビューから5歳秋のラストランまで、3年の間に32戦を消化した丈夫な馬だった。サダムノンノの半弟に、G2毎日王冠(芝1800m)など2重賞を制している現役馬エルトンバローズがいる。
牝系は、4代母が、吉田善哉氏が指揮をとっていた時代の社台ファームが導入した、ノーザンダンサーの直仔アンティックヴァリューだ。このファミリーからは、G1桜花賞(芝1600m)、G1オークス(芝2400m)の2冠を制したベガ、G1日本ダービー(芝2400m)勝ち馬アドマイヤベガ、G1朝日杯FS(芝1600m)勝ち馬にして、古馬になってからは2年連続で最優秀ダートホースの勲章を手にしたアドマイヤドン、G1桜花賞(芝1600m)勝ち馬ハープスターらが輩出されている。
種牡馬レイデオロは、極めて高かった期待に応えるだけの成績を、現状では残していると言い難い。しかし、同馬がもつミスタープロスペクターの3×4というインブリードを、何らかの形で刺激する起爆剤を仕掛けることが出来れば、途轍もなく走る仔が出る可能性を、依然として秘めた種牡馬であると筆者はみている。
さらに、父自身とは異なる個性を持つ馬が、レイデオロの代表産駒となる可能性もありそうだ。例えば、1600m以下で爆発的スピードを発揮する馬であったり、あるいは、3000m以上の距離で底力を見せる馬であったり、だ。前者であるならば、1200m戦で5勝をあげ、G1スプリンターズS(芝1200m)で入着したレディブロンドや、G3札幌スプリントS(芝1200m)で2着となったニュースヴァリューを、いずれも3代目に持つ本馬が、「その馬」であっても決しておかしくはない。


総括
日本における競馬が、産業としても興行としても繁栄を続けている背景にある、極めて重要な特質の1つが、クラブ法人というシステムが実に有効に機能しているというファクトであることに、世界の主立つ競馬開催国の心ある人たちは、既に気づき始めている。
国内に数あるクラブ法人が発表する、年次ごとの募集馬を、長きにわたってモニターしてきた筆者だが、広尾サラブレッド倶楽部が今回明らかにしたものほど、「アツさ」を感じさせる募集馬リストを、筆者は見たことがない。
パンサラッサを擁して芝とダートの世界制覇を成し遂げるという、稀有な快挙を成し遂げた広尾だが、同馬は散発的な花火のように出現した馬ではなく、ほぼ時を同じくしてバスラットレオンという海外重賞勝ち馬も送り出している。さらに今年の3歳世代にも、アンモシエラという世界を狙える逸材がいる。その層の「厚さ」を、さらに強固にするのが今回の募集馬だ。広尾サラブレッド倶楽部は、決して長大ではないものの、極めて高い資質を秘めた精鋭がひしめく、さらに重厚な戦力を擁することになる。
このラインナップを可能にしたのが、広尾が各方面にもつネットワークである。内外のトップホースマンたちと築いている信頼の「篤さ」、トップトレーナーたちとの間で培ってきた絆の確かさがあるからこそ、これだけ上質のラインナップを構築することが可能なのだ。
そして、今年の広尾のラインナップからは、日本のトップを獲る、世界の頂点に立つという、ほとばしるような「熱さ」を感じる。
ここに会員の皆様からの、アツいご支援という後押しがあれば、トップを獲れる、頂点に立てると、筆者は確信する。